天野 祐子 × ART RYUMEIKAN TOKYO
私が伝えたい東京
かつて、人間が蟻であった事はあるのだろうか。
今ここで、すれ違った人は一体どこから来てどこへ行くのか。
何という名前で歳は幾つなのだろうか。
帰る場所はあるのか。
そして、
私とすれ違うのは何度目なのだろうか。
ただ一つ確実に言える事は、それは人間であったという事である。
ここから見上げたビル群の隙間から見える夏雲は、
あれは入道雲だろうか、夕立雲だろうか
はたまた雷雲か。
足下の死んでひからびた虫を引きずる蟻は、
私とビルの隙間からこの雲を見ているのだろうか。
そうしているうちに今日も
日本橋の川はどこかの木の葉を海へと運ぶのだ。
かつて、神の視点であったやたらと高い所から見た
人間の生きている場所は、
昼間の雲と引き換えにやってきた夜の中で、
光と共に在った。
驚くほどにそれは美しかったのだ。
夜の空には今なお月と星が在り、
その下に広がるかわらず美しく輝く無数の光の粒は此処は、
人間の場所だと言っていた。
否、
私たちの生きている場所だと言っていた。
この高い場所からでは、
昼間にすれ違った人々も足下の蟻も流れる木の葉も何も見えないが、
確かに、
すべてがそこに居る事を感じた。
どこかで皆が、生活をしている事を感じた。
東京とはそういう場所である。
Artist
天野 祐子
1985年生まれ。写真家。
武蔵野美術大学映像学科卒業。
武蔵野美術大学大学院デザイン専攻写真コース修了。
第3回写真「1_WALL」入選。
主な展示、イベントに、
2011年高石晃/天野祐子2人展(吉祥寺 Art Center Ongoing)、
THE PHOTO/BOOKS HUB(東京 表参道ヒルズ)、
ヨコハマ・フォトマーケット PH4+Photo Exhibition (横浜 アーツコミッション・ヨコハマ)、
2010年第3回写真「1_WALL」展(銀座 ガーディアンガーデン)、
個展「KIN」(武蔵境 gallery WAGURAKU)等。
出版物に、「写真のプロフェッショナル」(PIE BOOKS/山内宏泰 著)、
アサヒカメラ6月号(PORTFOLIO)、
(株)heuristicが手掛けるPlanetary PhotobooksのNo,12に参加等。